作品の権利は、渡し方によって効果がまるで変わります。出版権を設定するのか、独占的に許諾するのか、非独占で貸すのか、著作権そのものを譲るのか。契約書の表題が「出版契約」でも「ライセンス契約」でも、中身を決めるのは、媒体、地域、期間、独占の有無、数量、対価の計算と報告、承認の手順、終わったあとの在庫と権利の戻し方です。このガイドは、書籍や電子書籍を出す・出してもらう、作品や図版を映像化・翻訳・商品化のために貸す、写真や図版を預けて使わせる、といった「出す・貸す・預ける」契約に絞り、著作権法の条文と契約書の条項を対応させて整理した解説集です。出版権の法定の内容と契約で上書きできる点、紙・電子・オンデマンド・音声化の媒体別の許諾、部数・売上・純利益で変わる許諾料の計算と報告・監査、映像化と翻訳の許諾、商品化の数量と在庫の管理、ライセンサーの監修と承認の運用、権利の保証と侵害への対応、絶版・終了のときの権利の戻し方まで、契約書の締結前に確かめたい論点を、テーマごとに詳しく取り上げます。漫画の制作委託、キャラクターの共同制作、人の肖像の利用は、別のガイドで扱います。

出版・ライセンスの契約を選びたい方

開いたノートとペンが置かれた机

出版権・独占許諾・非独占許諾・譲渡のどれにするか

権利の渡し方には、出版権の設定、独占的な許諾、非独占の許諾、著作権の譲渡があり、効果は大きく違います。契約書の表題ではなく、媒体・地域・期間・独占の有無・数量の5つの軸で中身を決めます。

著作権を譲渡する契約でも、翻案などの権利は特掲しなければ譲渡した側に留保されたものと推定されます(著作権法61条2項)。譲渡と許諾の違いは、最初に押さえます。

出版権や媒体ごとの許諾を整理したい方

万年筆と手書きの文字が並ぶ紙

出版権の法定の内容と、媒体を書き分ける許諾

出版権を設定すると、出版権者は設定行為で定めた範囲について権利を専有します(著作権法80条)。出版の義務、修正増減、存続期間、消滅請求、登録による第三者への対抗など、法定の内容と契約で変えられる点を整理します。

紙、電子、オンデマンド、音声化といった媒体は、一括で渡すか書き分けるかで、後から対価を取れるかどうかが変わります。「将来開発される技術を含む」という包括条項も、そのまま受け入れてよいか点検します。

許諾料の計算と報告を決めたい方

雑貨やバッグが並ぶ店内

部数基準・売上基準・純利益基準と、報告・監査

許諾料の計算式は、出版は部数や販売額、商品化は数量や純利益、翻訳は月次の報告と通貨というように、契約の種類で違います。控除できる費用の範囲、端数、最低支払額の繰越、為替の換算日まで、書き漏れがちな点を並べて確かめます。

報告の期限、帳簿の保存と閲覧、第三者による確認を置かないと、数量が分からないまま対価だけが決まってしまいます。商品化では、製造数量の上限と追加製造の承認、在庫の扱いもあわせて決めます。

映像化・翻訳・商品化を許諾したい方

ペンタブレットとペン

翻案権と原作者の権利、翻訳・海外のライセンス、承認の運用

小説や書籍の映像化・舞台化・ゲーム化では、翻案を許諾する権利(27条)と、できあがった二次的著作物の利用について原作者が持つ権利(28条)の関係を契約に書き分けます。改変の同意、クレジット、終了後の配信も決めておきます。

翻訳や海外配信では、独占の地域と言語、翻訳成果物の権利、完全独占の期間、報酬の通貨と換算日が論点です。商品化では、ライセンサーの監修と承認の期間・みなし承認・再許諾先の管理が、発売の時期と責任の分担を左右します。

写真・図版を預けて使わせる方

設計図にペンで描き込む手元

用途・加工・転載・データ管理を決めた利用許諾書

預けた写真や図版が、他の用途に使い回されないようにするには、用途・媒体・期間・地域、加工の可否、SNSへの転載、委託先への提供を許諾書に書いておきます。

撮影者や外注先との関係で、そもそも許諾する権限があるかの確認と、原データやバックアップの削除まで決めておくと、後の食い違いを防げます。

終わらせたい方・トラブルが起きた方

本や画材が置かれた机

絶版・在庫・権利の戻し方と、許諾の範囲外の利用への対応

契約を終わらせるときは、自動更新と更新拒絶の通知期限、出版義務違反による出版権の消滅請求、終了後の在庫販売と新規製造・配信の禁止、データの返却と廃棄証明を決めます。電子版では、すでに購入した読者へのサポートの継続も論点です。

許諾の範囲外の利用、報告や支払の停止、出版されない・増刷されない、口約束しかない、といった場面で取れる措置の順序も、契約の定めで違ってきます。署名前に確認する項目を一覧にして整理します。

このガイドの解説ページ

よくあるご質問

出版権を設定する契約と、通常の出版の許諾は何が違いますか?

出版権を設定すると、出版権者は設定行為で定めた範囲について、紙などの文書・図画として出版する権利と、その複製物を用いて公衆送信を行う権利を専有します(著作権法80条1項)。侵害する者に対して自ら差止めを請求でき(112条1項)、第三者に対抗するには登録が必要です(88条1項)。通常の許諾(63条)は、許諾された利用方法と条件の範囲内で使えるという関係にとどまります。相手にどこまでの専有と差止めの力を持たせるかで、どちらにするかを決めます。

著作権を譲渡する契約を結べば、すべての権利が相手に移りますか?

移るとは限りません。著作権を譲渡する契約で、翻案権(27条)と二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(28条)が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は譲渡した者に留保されたものと推定されます(61条2項)。また、著作者人格権は著作者に一身専属します。譲渡の範囲を、特掲の有無と人格権の扱いまで含めて書いておきます。

出版権の存続期間を決めなかった場合は、どうなりますか?

出版権の存続期間は、設定行為で定めるところによります(83条1項)。設定行為に定めがないときは、設定後最初の出版行為または公衆送信行為があった日から3年を経過した日に消滅します(83条2項)。更新の方法や、更新しないときの通知の期限は契約で決めておかないと、期間の満了と同時に出版権が消えることになります。

紙の本の契約で、電子版や音声化も一括で渡してよいですか?

許諾を得た者が使えるのは、許諾に係る利用方法と条件の範囲内に限られます(63条2項)。そのため、紙・電子・オンデマンド・音声化といった媒体は、書き分けておくのが基本です。「将来開発される技術を含む」と包括的に書くと、後から媒体ごとの対価を取れなくなるおそれがあります。含めるなら、対象の媒体と対価、再許諾の条件を限って書きます。

許諾料の計算式では、最初に何を決めますか?

基準になる数字(部数、販売額、数量、純利益のどれか)、その基準から差し引ける費用の範囲、報告の期限と項目、帳簿の保存と閲覧の方法です。見本・贈呈・在庫処分の扱い、最低支払額の繰越、端数、外国の通貨なら換算日も書き漏れがちです。計算式が曖昧なまま始めると、報告も入金も来ないときに、何を根拠に請求するかが決まりません。

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監修:アトラス行政書士法人(代表社員 荒木素子・特定行政書士) 最終確認日:2026年10月15日