このページの要点
- 翻案を許す権利は27条、できあがった二次的著作物の利用に原作者が持つ権利は28条。二つを分けて、契約に書く。
- 映画の著作物の著作権が映画製作者に帰属するのは29条1項の定め。原作の著作権まで移るわけではないので、原作・映像作品・制作素材の三層で帰属を書き分ける。
- 改変の同意、原作者名と題名の表示は、同一性保持権(20条)と氏名表示権(19条)に結びつけ、通常の変更と根幹に関わる変更を分けて決める。
- 独占の範囲と許諾の範囲、再許諾の承諾、生成AIの利用範囲、終了後の配信と素材の返却まで、署名前に確認する。
結論:「映像化を許す」ことと「できた作品の権利」は、別の約束として書く
小説、ノンフィクション、エッセイ、脚本、舞台の台本などを原作にして、映像作品、舞台、ゲームなどを作らせる契約は、見出しは一つの「原作使用許諾契約」でも、中には少なくとも三つの約束が入っています。第一は、原作を作り変えて新しい作品を作ることを許す約束です。第二は、できあがった作品を、どの方法で、どの地域で、いつまで世に出してよいかという約束です。第三は、できあがった作品や、制作の途中で生まれた素材の権利を誰が持つかという約束です。この三つを一つの条項に混ぜて書くと、何を決めたのかが読み取れなくなり、続編や配信先の追加、海外展開、グッズ化といった「次の話」が出たときに、誰が決められるのかが宙に浮きます。
このページの結論は三つです。第一に、翻案を許す約束(著作権法27条)と、できあがった二次的著作物の利用について原作者が持つ権利(28条)は、条文の上でも別の権利です。契約でも別々の条項として書きます。第二に、映像作品の著作権の帰属には29条1項の定めがありますが、これは映画の著作物の著作権についての規定であり、原作そのものの権利が動くわけではありません。原作、映像作品、制作の過程で生まれた素材の三つの層に分けて、帰属を書きます。第三に、改変の同意、原作者名と題名の表示、独占の範囲、再許諾、終了後の配信、生成AIの利用範囲は、問題が起きる前に決めておきます。
このページは、小説や書籍、脚本のように文章を主とする作品を原作にする場合を念頭に置いています。漫画を原作にした動画化には、漫画に特有の論点がありますので、別のガイドで扱います。また、出版そのものの権利の渡し方(出版権の設定、独占的な許諾、非独占の許諾、譲渡)の違いは、出版・ライセンス契約の選び方で整理しています。映像化の契約は、4つの類型のうち、許諾(独占的または非独占)の形をとるのが一般的です。
契約書を開く前に、原作者の側で決めておくこと
- 許諾の対象にする原作の範囲。本編だけか、設定資料、続編、外伝、スピンオフまで含めるか。
- 映像化、舞台化、ゲーム化のうち、どれまでを一つの契約に含めるか。含めないものは「許諾しない」と書くか、別途協議とするか。
- 独占にするか。独占にするなら、展開の種類、地域、媒体、期間のどこまでを独占の範囲にするか。
- 作品の内容を変えてよい幅と、原作者の同意を取る場面。
- 原作者名と題名の表示のしかた。
- 契約が終わった後の配信や販売を、どう扱うか。
制作する側(ライセンシー)にとっても、この表はそのまま使えます。制作側は、自分が得る権利の範囲、できた作品を誰に配信させてよいか、原作者の同意が必要な場面はどこか、という同じ項目を、反対向きから確認します。
27条と28条:翻案を許す権利と、できあがった作品に及ぶ原作者の権利
著作権法27条は、著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する、と定めています。「専有する」とは、著作者だけがその行為をでき、ほかの人が行うには許諾が必要だという意味です。小説を映像にする(映画化)、舞台にする(脚色)、ゲームの物語に作り変える(その他翻案)は、いずれもこの権利の範囲に入ります。翻案して作られた作品は、著作権法上「二次的著作物」と呼ばれ(2条1項11号)、もとの作品は「原著作物」です。二次的著作物に対する保護は、原著作物の著作者の権利に影響を及ぼさないとされています(11条)。
28条は、二次的著作物の原著作物の著作者は、その二次的著作物の利用について、二次的著作物の著作者が持つ権利と同じ種類の権利を専有する、と定めています。映像作品が配信され、パッケージとして頒布され、上映され、さらに外国語版が作られるたびに、映像作品を作った側の権利と並んで、原作者の側にも同じ種類の権利が及ぶということです。したがって、映像化を許諾したあとで、完成した映像作品を誰かがさらに別の形で利用しようとする場面では、映像作品の著作権者の許諾に加えて、原作者の許諾が要る場合があります。契約書の再許諾の条項や使用範囲の条項が細かく書かれる背景には、この28条があります。
契約実務では、28条の権利を次の二つのどちらで整理するかを決めます。一つは、映像化の許諾の時点で、できあがった映像作品の一定の利用(配信、パッケージ、上映、放送など)を、原作者があらかじめ許諾しておく方法です。この場合は、許諾する範囲(地域、媒体、期間)を書いておきます。もう一つは、映像作品の利用の種類ごとに、そのつど原作者の許諾を取る方法です。制作側にとっては前者が使いやすく、原作者にとっては後者のほうが手元の管理が利きます。両者の中間として、主要な利用はあらかじめ許諾し、新しい種類の利用だけを別途協議とする形も考えられます。
条文が契約書のどこに現れるか
| 条文 | 条文が定めること | 契約書で決めること |
|---|---|---|
| 27条 | 翻訳、編曲、変形、脚色、映画化その他の翻案を行う権利を、著作者が専有する。 | 翻案の対象(映像、舞台、ゲームなど)。続編、外伝、別の編集など、許諾しない展開。 |
| 28条 | 二次的著作物の利用について、原作者が二次的著作物の著作者と同種の権利を専有する。 | できあがった作品の利用(配信、パッケージ、上映、放送、翻訳版)への原作者の関わり方と、あらかじめ許諾する範囲。 |
| 63条2項・3項 | 許諾を得た者は、許諾に係る利用方法と条件の範囲内で利用できる。利用権は、著作権者の承諾を得ない限り譲渡できない。 | 許諾の範囲の書き方。権利の譲渡と再許諾に承諾が要ること。 |
| 19条・20条・59条 | 氏名表示、同一性保持、そして著作者人格権が著作者の一身に専属し譲渡できないこと。 | クレジットの形、改変の同意、人格権を行使しない約束の範囲。 |
| 61条2項 | 著作権を譲渡する契約で27条・28条の権利が特掲されていなければ、これらは譲渡した者に留保されたものと推定される。 | 譲渡を伴うときに、27条・28条の権利を譲渡の対象に含めるか、含めないかの明記。 |
表の最後の61条2項は、映像化の契約が「許諾」ではなく「権利の譲渡」の形で書かれている場合に決め手になります。著作権を譲渡する契約で、27条と28条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は譲渡した者に留保されたものと推定されます。つまり、映像化の権利を譲る気持ちで「著作権を譲渡する」と書いても、27条・28条の権利を特掲しなければ、翻案する権利は原作者の手元に残ったものと推定され、譲受側が思っていたような映像化の権利が得られない可能性があります。この推定を覆すのも、残すのも、契約書の書き方次第です。
映像化の許諾の強さ(原作者の手元から離れる度合い)
◀ 原作者の手元に残る制作側に移る ▶
都度の個別許諾
作品ごと、利用ごとに許諾を出す
- 原作者が個々の企画を見て判断できる。
- 制作側は企画のたびに許諾待ちになる。
範囲を定めた包括許諾
展開の種類と地域・媒体・期間を決めて許諾
- 範囲の中では制作側が自分で判断して進められる。
- 範囲外は別途の許諾が必要。
独占的な許諾
同じ範囲を他の人に許諾しないと約束
- 制作側は投資を回収しやすい。
- 原作者も、独占の範囲では自分や他の人に許諾できなくなる。
権利の譲渡
翻案する権利そのものを渡す
- 27条・28条の権利を特掲しなければ留保と推定される(61条2項)。
- 渡した範囲では原作者の手元に戻らない。
映像化の契約は、左の二つ(個別許諾と、範囲を定めた包括許諾)のどちらかで結ばれることが多く、右の二つは慎重に検討する形です。
映像作品の権利は誰のものか:29条の働きと、原作・映像・素材の三層
映像作品は、著作権法の用語では「映画の著作物」にあたります。16条は、映画の著作物の著作者を、その映画の著作物において翻案され、又は複製された小説、脚本、音楽その他の著作物の著作者を除き、制作、監督、演出、撮影、美術等を担当して、その映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者としています。つまり、映像の原作を書いた人は、映画の著作物の著作者には含まれません。そのうえで29条1項は、映画の著作物の著作権は、その著作者が映画製作者に対して、映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは、その映画製作者に帰属する、と定めています(15条1項などの適用を受けるものを除きます)。
ここで押さえたいのは、29条1項が定めているのは「映画の著作物の著作権」の帰属だということです。原作や、映像化にあたって映像の外にある脚本の著作権が、映画製作者に移るという意味ではありません。映像作品が完成して、その著作権が映画製作者に帰属したあとでも、原作の著作権は原作者のものであり、28条により、映像作品の利用に対して原作者の権利も及び続けます。さらに26条2項は、映画の著作物において複製されている著作物(原作や脚本など)の著作者が、その映画の著作物の複製物により頒布する権利を専有する、と定めています。映像がパッケージとして頒布される場面では、原作者に頒布についての権利が及びます。
これらを契約書に整理するとき、帰属は三つの層に分けて書くと読み間違いが減ります。第一の層は原作です。原作者に残り、本契約で移転しないと書きます。第二の層は、できあがった映像作品です。映画製作者である制作側に帰属させるのが普通ですが、そのとき原作の使用範囲を超えられないことと、28条の権利は原作者に残ることを併記します。第三の層は、制作の過程で生まれた素材です。映像用に書かれた脚本や構成案、設定画、キャラクターのデザイン、音声や楽曲のデータ、字幕、予告編などがこれにあたり、完成した作品とは別に、誰が持ち、誰がどの範囲で使えるのかを決めます。原作者が将来、自分の出版や続編の企画でこれらの素材を使いたい場面や、逆に制作側が別の企画に流用したい場面が、争いの典型です。
書き方の例(一般的な例) 帰属の条項
帰属の範囲
理由「一切の権利」は、文字どおり読めば原作に関する権利まで含みます。別の条で「二次的著作物の権利は原作者に帰属する」と書いたまま、この条を置くと、契約書の中で条文同士が食い違います。
28条の扱い
理由権利があると確認するだけでは、実際の配信やパッケージ化のたびに許諾が必要かどうかが分かりません。あらかじめ許諾する範囲を書いておくと、制作側は都度の承諾待ちを避けられます。
制作の途中で生まれた素材
理由素材は完成した作品とは別に残ります。後から原作者が出版や続編で使いたい、制作側が別企画に流用したいという話が出たときの基準になります。
条文例帰属を三層で書く条文例(一般的な例)
- 本原作の著作権(著作権法第27条および第28条に定める権利を含む。)は、甲に帰属し、本契約によっても乙に移転しない。
- 本映像作品の著作権は、乙に帰属する。ただし、乙は、本映像作品の利用にあたり、本契約に定める範囲を超えて本原作を利用してはならない。
- 本映像作品の制作の過程で創作された脚本、設定資料、キャラクターデザインその他の素材(以下「制作素材」という。)の著作権は、○○に帰属する。他方の当事者は、第○条に定める範囲で、制作素材を無償で利用することができる。
- 甲は、乙が第○条に定める範囲で本映像作品を利用することを、著作権法第28条に定める権利に基づき、あらかじめ許諾する。
「○○」には、取引の実態に応じて原作者側か制作側かを入れます。制作素材の著作権を制作側に置く場合でも、原作の世界観や登場人物を使った部分は、原作の使用範囲を超えて利用できないという関係は変わりません。
舞台の上演やゲームのように、完成した作品が映画の著作物にあたるかどうかが作品の形によって変わりうる展開では、29条の適用を当然の前提にして帰属を条文任せにすることは避けます。条文の解釈で決まる部分と、契約で決められる部分を切り分け、契約で決められる部分は、完成物の著作権の帰属まで含めて、はっきり書いておきます。
改変の同意、題名、クレジット:人格権を契約にどう落とすか
映像化や舞台化では、尺の都合で場面を削り、登場人物をまとめ、結末を変えることが珍しくありません。著作者は、その著作物とその題号の同一性を保持する権利を持ち、その意に反して変更、切除その他の改変を受けないとされています(20条1項)。氏名表示権(19条1項)は、二次的著作物の公衆への提供や提示に際しての、原著作物の著作者名の表示にも及びます。そして、著作者人格権は著作者の一身に専属し、譲渡できません(59条)。そのため制作側は、人格権そのものを譲り受けるのではなく、原作者に「行使しない」と約束してもらう形をとることが多くなります。
この約束の幅の決め方に、契約の質が出ます。「著作者人格権を行使しない」と全面的に書いてしまうと、原作者にとっては、原作の趣旨を損なう改変にも異議を言えなくなります。反対に、改変のたびに原作者の同意を要求すると、制作の現場が止まります。実務では、通常の変更と、根幹に関わる変更を二段に分けて書くのが、双方にとって運用しやすい形です。
書き方の例(一般的な例) 改変・題名・クレジットの条項
改変の同意
理由全面的な不行使は原作者に重く、毎回の同意は制作に重い。二段に分け、同意を要する範囲を具体的に挙げます。
クレジット
理由「適切に」は、後で守られたかどうかを判断できません。どこに、どの形で、どんな例外があるかを書きます。
題名
理由同一性保持権の対象には、題号も含まれます(20条1項)。題名は、作品の顔として読者や視聴者に最初に届く部分です。
同意を取る手続も、あわせて決めます。同意の求め方(書面、電子メール)、同意の期限、期限までに返事がないときの扱い(同意したものとみなすか、改めて催告するか)を書かないと、制作の日程が相手の返信待ちで止まります。承認の期間やみなし承認の設計は、監修・承認の流れのページで整理しています。また、クレジット表記が守られなかったときは、期間を定めて是正を求め、是正されなければ解除できる、という順序を置くと、表記の問題を契約全体の解消に直結させずに済みます。
独占か非独占か、範囲と再許諾:映像化の許諾を組み立てる軸
映像化の契約で食い違いが生じやすい場所は、独占の範囲です。「独占的に許諾する」と書くとき、何についての独占なのかを分けて考えます。同じ原作の映像化を独占するだけなのか、舞台化やゲーム化も含めて他に許諾しないのか。国内に限った独占なのか、海外も含むのか。配信は独占でも、パッケージは非独占なのか。さらに、原作者自身が自分の作品を朗読や出版、舞台で使うことまで制限されるのかも、独占の範囲に含めるかどうかで変わります。許諾の範囲と独占の範囲が食い違うこと(たとえば、独占は国内だけなのに、許諾は国内外の配信に及ぶ書き方)もよくあり、国外では非独占なのか、そもそも許諾したのかが読み取れなくなります。
映像化・舞台化・ゲーム化の許諾を組み立てる5つの軸
1展開の種類
映像(実写、アニメーション)、舞台、ゲーム、朗読・音声作品のどれを許諾するか。許諾しない種類の明記。
書かないと「その他一切の翻案」と書くと、想定していない展開まで許諾したと読まれます。
2地域
日本国内か、海外を含むか。海外を含むなら、翻訳版や吹替版を誰が作るか。
書かないと配信は国境を越えます。独占の地域と許諾の地域がずれます。
3媒体・方法
配信、放送、パッケージ、上映、ゲームやアプリへの組み込み、広告用の映像。
書かないと新しい配信の形が出たときに、含まれるのか別途協議なのかで争いになります。
4期間
製作に着手する期限と、許諾の有効期間。
書かないと製作が始まらないまま、原作が長い間押さえられた状態になります。
5独占の度合い
同種の許諾を他に与えない約束の範囲と、原作者自身の利用の留保。
書かないと原作者が、自分の作品を使えなくなります。
5つの軸は、契約書の「許諾」の条と「独占」の条の両方で、同じ内容になるように揃えます。
製作着手の期限は、特に重要です。映像化の許諾を与えたものの製作が始まらず、原作がそのまま長く押さえられる事態は、原作者にとって最も困る結果の一つです。製作の着手期限を置き、その期限までに着手しないときは許諾が失効する、あるいは独占の許諾が非独占に切り替わる、という書き方があります。製作の義務を制作側が負うのか、権利を預かっているだけなのかで、取れる手段が変わります。債務を履行しない場合の一般的な救済(民法415条)の前に、契約で「製作する義務」と「着手の期限」を明記しておくのが基本です。許諾の戻し方は、終了・絶版・権利の戻し方のページでも扱います。
再許諾にも注意が要ります。許諾を得た者の利用権は、著作権者の承諾を得ない限り譲渡できません(63条3項)。映像作品の配信を別の配信事業者に任せるといった場面は、映像作品の著作権者としての許諾であり、28条により原作者の許諾も要る場面があり得ます。いちいち承諾を取るのは制作側に重いので、配信や販売を任せる先への許諾はあらかじめ範囲を定めて認め、先の名称や条件を通知させる、という形で原作者の管理を残すのが、実務的な折衷案です。
条文例再許諾の承諾を整理する条文例(一般的な例)
- 乙は、甲の事前の書面による承諾を得ない限り、本契約に基づく権利を第三者に譲渡し、または再許諾してはならない。
- 前項の定めにかかわらず、乙は、本映像作品の配信、販売または上映を第三者に委託する場合には、第○条に定める範囲で、当該第三者に本映像作品の利用を許諾することができる。この場合、乙は、あらかじめ当該第三者の名称および許諾の範囲を甲に通知する。
- 乙は、前項の第三者に対し、本契約において乙が甲に対して負う義務と同等の義務を負わせる。
承諾を要する場合と、通知で足りる場合を分けておくと、制作側の運用と原作者の管理を両立できます。再許諾先の管理の考え方は、監修・承認の流れでも詳しく扱っています。
生成AIの利用制限の入れ方
近年は、映像化の契約に生成AIの利用に関する条項が入ることが増えました。制作の現場では、キャラクターの作画、背景、脚本の下書き、音声、字幕の翻訳まで、さまざまな場面でAIが使われる可能性があります。原作者は、自分の作品の世界観が機械的に生成されたもので置き換えられることや、原作が学習や参照に使われることを心配します。一方で制作側は、色調の補正や字幕の下訳といった補助的な作業まで禁じられると、制作が回りません。「生成AIを用いてはならない」の一文だけでは、どこまでが禁止なのかが読み取れません。
確認の問いと理由生成AIの条項を置く前の問い
「生成AI」とは、どの技術、どの道具を指すのか。
定義が曖昧だと、既存の編集ソフトの機能まで含まれて、守れない条項になります。定義を置き、対象を絞ります。
禁止する用途は何か。キャラクターデザイン、作画、脚本、台詞、音声、楽曲、背景のどれか。
創作の中核にあたる部分と、補助的な作業を分けます。中核を禁止し、補助は条件付きで認める形が現実的です。
補助的な作業を認めるなら、事前の承諾か、事後の報告か。
手続を決めないと、毎回の協議が必要になり、日程が遅れます。承諾の期限も、あわせて決めます。
原作のテキストや画像を、AIに入力すること自体を認めるか。
原作の情報が外部のサービスに渡るかどうかが論点です。秘密保持の条項とも関係します。
外注先や再許諾先にも、同じ制限を課すか。違反が見つかったときの措置は何か。
映像の制作は何段階にも分かれます。外注先に及ばなければ、制限の意味が薄れます。
この種の条項は、条文で一律に決まるものではなく、当事者の約束で決める事項です。そのため、書き方の幅が大きいぶん、定義と手続を丁寧に書くことが効きます。
条文例生成AIの利用範囲を限る条文例(一般的な例)
- 乙は、本映像作品の制作において、キャラクターデザイン、作画、脚本、台詞、音声および楽曲の創作を、生成AI(入力された指示に応じて画像、文章、音声その他のコンテンツを自動的に生成する技術をいう。以下同じ。)により行ってはならない。
- 乙は、前項に定める創作以外の補助的な作業(色調の補正、雑音の除去その他の編集作業をいう。)に生成AIを用いようとするときは、あらかじめ、その内容および用いる技術を甲に通知し、甲の書面による承諾を得る。
- 乙は、本原作の全部または一部を、生成AIに入力し、または学習の用に供してはならない。
- 乙は、本映像作品の制作に関与する第三者に対しても、前三項と同等の義務を負わせる。
一項の禁止と、二項の例外(承諾を得た補助的な作業)をセットにするのが基本です。例外を認めない契約にする場合は、二項を削除し、その代わりに、道具の名前を挙げた確認の方法を置く、という選択もあります。
終了後の配信・頒布・素材:契約が終わるとき何が残るか
映像化の契約が終わったとき、すでに完成している映像作品をどうするかは、物理的な在庫がある商品化と違って、判断が難しい問題です。配信は、止めない限り続く状態だからです。選択肢は大きく三つあります。契約の終了と同時にすべて停止する方法、一定の期間は既存の配信や販売を認め、新規の制作や配信は禁止する方法、完成した作品については期間を定めずに継続を認め、収益の分配や報告の義務だけを続ける方法です。三つ目は、原作者の権利が長く続くため、収益の分配と報告が続く仕組みと結びつけて設計します(許諾料の計算と報告)。
終了の手順の一例
- 終了の通知期間満了、解除、合意解約のどれで終わるかを書面で確認。
- 新規の制作・配信の停止終了日以後の新しい制作、新しい配信先の追加を止める。
- 既存分の扱い既存の配信・販売を、期間と条件を付けて認めるか、停止するか。
- 素材・データの返却提供を受けた原作の素材、データを返却するか、復元できない形で消去し、証明を出す。
- 存続する条項秘密保持、報告と支払、クレジットなど、終了後も続く義務を確認する。
契約が解除で終わる場合は、既存分を認める期間を短くする、または認めない、という例外を置くことがあります。
範囲外の利用や、解除後の利用の継続に、違約金を置くことがあります。民法420条は、当事者は債務の不履行について損害賠償の額を予定することができ(1項)、違約金は賠償額の予定と推定する(3項)と定めています。違約金は、一度決めると原則としてそのとおりに効くため、金額の決め方は慎重に行います。使用料の一定倍率などの定め方をする場合は、損害の実態に釣り合うかを確認します。同じ趣旨の違約金が複数の条に重複して置かれると、どの違反にどの額が適用されるのかが読めなくなります。違約金は一か所にまとめて書くか、複数の条に置く場合は重複して請求できないことを明記します。
提供素材の返却と廃棄も、終了の手順に含めます。原作のデータや設定資料を預けた場合に、返却するのか、復元できない形で消去するのか、消去したことを書面で証明するのかを決めます。提供素材の管理の詳細は、監修・承認の流れのページで扱います。
署名前の確認と、起きがちなこと
署名前に確認すること
- 許諾の対象(展開の種類)が列挙されていて、「その他一切」で広げられていないか。
- 27条の翻案の許諾と、28条の権利(できあがった作品の利用)の扱いが、別々の条項で書かれているか。
- 原作、映像作品、制作の過程で生まれた素材の帰属が、三つの層で書かれているか。条同士が食い違っていないか。
- 改変の同意が、通常の変更と根幹に関わる変更の二段になっているか。同意の期限と、返事がないときの扱いはあるか。
- 原作者名と題名の表示が、位置、形、例外まで具体的か。
- 独占の範囲と許諾の範囲が、展開の種類、地域、媒体で一致しているか。製作の着手期限はあるか。
- 再許諾の承諾が要る場合と、通知で足りる場合が分けて書かれているか。
- 生成AIの定義、禁止する用途、補助作業の手続、外注先への適用が書かれているか。
- 終了後の配信、頒布、素材の返却、存続する条項が書かれているか。
起きがちなこと
- 「映像化を許諾する」とだけ書いたため、舞台化やゲーム化まで許諾したと読まれ、別の相手との話が進められなくなった。
- 映像の権利を「一切」制作側に帰属させると書いたことで、原作の権利まで制作側に移ったと主張された。
- 改変の同意の条項がなく、結末や登場人物の設定が大きく変えられた。あるいは、全面的な同意制にしたために、制作が止まった。
- 独占を国内に限ったつもりが、許諾は国内外の配信に及び、海外では他社にも許諾できるのか判断がつかなくなった。
- 製作が始まらないまま許諾が続き、原作を他の企画に使えない状態が長く続いた。
- 生成AIを使ってはならないと書いたが、定義がなく、どの作業が禁止なのかを巡って争いになった。
- 契約終了後も配信が続き、収益の報告も入金もないまま、原作者が確認する手段を持たなかった。
よくあるご質問
小説の映像化を許諾すると、原作の著作権は制作会社に移りますか?
許諾は、許諾された利用方法と条件の範囲内で利用できるようにするものであり(著作権法63条2項)、原作の著作権が移るわけではありません。権利の譲渡とは別の話です。ただし、著作権を譲渡する契約を結ぶと、27条・28条の権利が特掲されていない場合は譲渡した側に留保されたものと推定されます(61条2項)。映像化の契約が許諾なのか譲渡なのかは、表題ではなく、契約の中身で確認します。
映像作品の著作権は、誰が持つことになりますか?
映画の著作物の著作権は、著作者が映画製作者に対して製作への参加を約束しているときは、映画製作者に帰属すると定められています(29条1項)。ただし、原作の著作者は映画の著作物の著作者から除かれており(16条)、原作そのものの著作権の帰属を定めた規定ではありません。映像作品の権利、原作の権利、制作の過程で生まれた素材の権利を、契約で書き分けておきます。
映像化の許諾に、続編や舞台化も含まれますか?
含まれるかどうかは、契約に書かれた許諾の範囲によります。許諾を得た者は、許諾に係る利用方法と条件の範囲内で利用できるとされています(63条2項)。そのため、許諾の対象になる展開を列挙し、「その他一切」で範囲を広げない書き方が安全です。続編や外伝を含めるなら、その旨を明記し、含めないなら、含まないことを明記します。
原作者は、映像作品の内容に口を出せますか?
著作者は、著作物とその題号の同一性を保持する権利を持ち、意に反する改変を受けないとされています(20条1項)。契約では、通常の変更は通知で足り、結末や主要な登場人物の設定などの根幹に関わる変更は事前の同意を要する、というように範囲を分けて決めます。全面的に人格権を行使しないと約束すると、改変への異議が言えなくなる点に注意してください。
映像化の許諾を出したのに、製作が始まらないときはどうなりますか?
契約に製作の着手期限と、期限までに着手しない場合の扱い(許諾の失効、独占の解除など)が書かれていれば、それに従います。書かれていないと、製作する義務を制作側が負っているのか、権利を預かっているだけなのかが問題になります。義務を負っているのであれば債務不履行の問題となり(民法415条)、そうでなければ、許諾の期間が終わるまで待つことになりかねません。契約の段階で、義務と期限を書いておくのが基本です。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の取引への当てはめは、契約の内容や取引の実態によって異なることがあります。条文は e-Gov法令検索(法令API)で確認しています。参考: e-Gov法令検索 / 文化庁