翻訳・多言語化・海外配信のライセンス契約:翻訳権、独占地域、完全独占期間、為替

翻訳や海外での販売を認める契約では、翻訳成果物の帰属、独占の地域と言語、権利者自身の国内での扱い、通貨と換算日、準拠法を、順に決めます。

トップページ › 翻訳・多言語化・海外配信のライセンス契約:翻訳権、独占地域、完全独占期間、為替
海外の事業者に翻訳を任せたら、翻訳文の権利が相手のものになり、契約が終わったあとに、翻訳文を誰も使えない状態になることがあります。

このページの要点

  • 翻訳は27条の翻案権の範囲。翻訳成果物は二次的著作物で(2条1項11号)、原作者の権利に影響しない(11条)。原作の権利と翻訳成果物の権利を分けて書く。
  • 独占は、地域・言語・媒体の三つで範囲を決める。権利者自身が自国で翻訳版を扱うための許諾と、完全独占期間をあわせて書く。
  • 翻訳者など制作の委託先と、販売・配信先への許諾は区別する。許諾を得た者の利用権は、著作権者の承諾なく譲渡できない(63条3項)。
  • 外国の通貨で金額を定めたときの換算(民法403条)、報告頻度、最低支払額の繰越、準拠法(通則法7条)、管轄、補償を、契約前に決める。

結論:翻訳のライセンスは「原作」「翻訳成果物」「販売の権利」に分けて書く

作品を外国語に翻訳して、海外で販売したり配信したりする契約は、国内の出版契約と似ているようで、決めることが増えます。翻訳を許す約束のほかに、翻訳によってできあがる新しい文章(このページでは「翻訳成果物」と呼びます)の権利を誰が持つか、どの地域とどの言語で独占を認めるか、権利者自身が自国で翻訳版を扱えるのか、報酬をどの通貨で、いつの為替相場で換算するか、どの国の法律で解釈するのか、といった項目です。しかも、相手が外国の事業者であることが多く、契約書は相手方が用意した様式がそのまま出てくることが少なくありません。様式をそのまま受け入れると、翻訳成果物の権利や独占の範囲が、思っていた形と違っていることがあります。

このページの結論は三つです。第一に、翻訳は著作権法27条の翻案する権利の範囲に入ります。できあがった翻訳成果物は二次的著作物にあたり(2条1項11号)、原作者の権利に影響を及ぼしません(11条)。そのため契約では、原作の権利と翻訳成果物の権利を分けて書きます。第二に、独占は、地域、言語、媒体の三つで範囲を決めます。翻訳側が翻訳成果物を持つ場合は、権利者が自国で翻訳版を扱うための許諾と、権利者自身も売らない完全独占の期間を、あわせて書きます。第三に、報酬の通貨と換算日、準拠法、管轄、補償の範囲は、契約の締結前に決めます。決めずに始めると、最初の支払いの時点で食い違いが表に出ます。

このページは、作品そのものの翻訳、出版、配信を許諾する契約を扱います。外国から物を輸入したり、外国に物を輸出したりする売買の契約は、別の論点になります。媒体ごとの許諾の書き分けは媒体別の許諾、許諾料の計算式と報告の基本は許諾料の計算と報告のページで整理しています。

最初に決めておくこと(権利者の側)

  • 許諾する作品の範囲。作品を特定するための題名、巻数、版の区別。
  • 翻訳する言語と、独占を認める地域。同じ言語が使われる複数の地域の扱い。
  • 翻訳成果物の権利を誰に置くか。置いた側が、どの範囲で他方に利用させるか。
  • 権利者自身が自国で翻訳版を扱えるか。扱えるなら、いつから、どの範囲で。
  • 報酬の通貨、換算日、報告の頻度、最低支払額。
  • 準拠法と、紛争の解決の場所。

翻訳権と翻訳成果物の帰属:27条、2条1項11号、11条

著作権法27条は、著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、変形し、脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する、と定めています。翻訳もこの権利の範囲です。翻訳によって創作された作品は、二次的著作物にあたります(2条1項11号)。二次的著作物には、翻訳をした人の創作性による著作権が成立する一方で、その保護は原著作物の著作者の権利に影響を及ぼしません(11条)。さらに28条により、原作の著作者は、翻訳成果物の利用についても、翻訳成果物の著作者が持つ権利と同じ種類の権利を専有します。したがって、翻訳成果物を使うには、原作者と翻訳成果物の著作権者の、両方の権利が関わります。

この関係を契約で整理するときの選択肢は、おおむね四つです。翻訳成果物の著作権を翻訳側(ライセンシー)に置く方法、権利者に置く方法、翻訳側に置きつつ権利者に無償の利用権を認める方法、共有にする方法です。共有にする方法は、利用や許諾のたびに共有者同士の調整が必要になり、扱いが重くなります。契約書では、翻訳側に置くか権利者に置くかのどちらかになり、置かれなかった側に利用権を認めるかどうかが、条件交渉の中心になります。

翻訳成果物の帰属の選択肢

帰属の形長所注意すること
翻訳側に置く翻訳側が、翻訳の費用を回収しやすい。改訂や表現の調整を自由に行える。権利者が、自国での別の流通や、別の翻訳者による改訂に翻訳文を使えない。契約の終了後に、誰も翻訳文を使えない状態になることがある。
権利者に置く権利者が、翻訳文を自由に使い、翻訳者を替えられる。翻訳側は、費用をかけた成果物を所有できない。独占や対価の条件で、その分を補う必要がある。
翻訳側に置き、権利者に利用権を認める双方が翻訳文を使える。利用権の範囲(地域、媒体、期間、対価の有無)を決めないと、解釈が割れる。
共有にする双方に権利が残る。利用や許諾のたびに調整が必要になる。持分の扱いも決めておく必要がある。

もう一つ見落とされやすいのが、翻訳を担当する人の著作者人格権です。翻訳成果物の著作者となる人の人格権は、その人の一身に専属し、譲渡できません(59条)。そのため、翻訳側が翻訳者に制作を任せる場合は、翻訳側が権利を取得するだけでなく、翻訳者から人格権を行使しないという約束も取っておく必要があります。権利者に翻訳成果物を置く契約であっても同じです。この約束がないと、翻訳文に手を加える、題名を変える、翻訳者名を載せない、といった場面で、翻訳者から異議が出る可能性が残ります。

書き方の例(一般的な例) 翻訳成果物の帰属・人格権・関連資料

帰属

よくある書き方「翻訳成果物に関するすべての権利は乙に帰属する。」と書き、乙が権利を譲り受けたことだけを述べる。
整えた書き方「翻訳成果物の著作権は乙に帰属する。ただし、乙は、本原作の権利者である甲の許諾なく、翻訳成果物を本契約に定める範囲を超えて利用してはならない。甲は、第○条に定める範囲で、翻訳成果物を無償で利用することができる。」

理由翻訳成果物は、原作を土台にした二次的著作物です。翻訳側が権利を持っても、原作を使う範囲は契約で縛られています。その関係と、権利者の側の利用権をあわせて書きます。

翻訳者の人格権

よくある書き方翻訳者との関係に触れていない。
整えた書き方「乙は、翻訳成果物の制作を第三者に委託するときは、当該第三者から、翻訳成果物に関する著作者人格権を行使しない旨の書面を得る。」

理由人格権は譲渡できないため(59条)、翻訳側が権利者の承諾を得て制作を任せるときも、翻訳者の側の約束を契約に組み込む必要があります。

関連資料(表紙・広告文・パッケージ)

よくある書き方翻訳成果物と一緒に「関連資料のすべて」を、一方に帰属させる。
整えた書き方「表紙、題名ロゴ、登場人物の図像など、本原作に由来する部分は甲に留保される。乙が新たに制作した広告文その他の部分は乙に帰属する。」

理由関連資料には、原作の絵や題名が使われています。「すべて」とすると、原作に由来する部分まで動いたように読めます。

独占地域・言語・媒体と、完全独占期間

翻訳のライセンスで「独占」と書くとき、地域、言語、媒体の三つを分けて考えます。地域は、国名を列挙する方法と、広い範囲の地域をまとめて指定する方法があります。言語は、たとえば同じ言語が複数の国で使われている場合に、どの国で使うかを別に決める必要があります。同じ言語でも表記や綴りが違うものの区別も必要です。媒体は、紙の書籍、電子書籍、配信、音声などです。三つの掛け合わせで独占の範囲が決まります。地域の定め方が広すぎると、権利者が自分の国で、自分の作品の翻訳版を扱えなくなる事態も起こります。

ここで出てくるのが、権利者自身が翻訳版を扱うための許諾と、完全独占期間です。翻訳側が翻訳成果物の権利を持つ契約では、権利者が自国で翻訳版(外国語版)を扱いたいとき、翻訳側からその許諾を受ける必要があります。そこで、翻訳成果物が公表されてから一定の期間は、権利者自身も翻訳成果物を売らず(完全独占期間)、その期間が終わった後は、権利者が自国の範囲で、非独占の許諾を受けて翻訳版を扱える、という二段階の書き方があります。このとき、翻訳側から権利者に与える許諾に、譲渡や再許諾の禁止などの条件を付けるかどうかと、その売上の扱いも書いておきます。

独占の強さ(権利者の自由度が下がる順)

◀ 権利者の自由度が高い翻訳側の囲い込みが強い ▶

非独占の翻訳許諾

誰にでも翻訳を許諾できる

  • 権利者は、同じ言語・地域で複数の相手に許諾できる。
  • 翻訳側は、投資を回収する保証が弱い。

言語・地域を限った独占

その言語・地域では他に許諾しない

  • 翻訳側が、安心して費用をかけられる。
  • 権利者は、その範囲では他に許諾できず、自分も売れない。

完全独占期間つきの独占

一定の期間は権利者自身も売らない

  • 公表直後の販売を、翻訳側に集中させる。
  • 期間の起点と終点を決めないと、いつまで売れないかが分からない。

翻訳成果物ごと権利を渡す

翻訳文の権利を相手に置く

  • 権利者の側で翻訳文を使えなくなることがある。
  • 契約終了後の扱いを書いておく必要がある。

最後の形ほど、権利者の手元から離れます。権利者の側から見ると、独占の度合いと、期間の長さ、地域の広さを、まとめて確認することが必要です。

確認の問いと理由独占の範囲を決める前の問い

  1. 地域は、国名の列挙か、広い範囲の一括指定か。

    一括指定型は書くのは簡単ですが、権利者が将来、別の地域で別の相手と組みたいときの余地が消えます。

  2. 言語は、どの言語のどの表記か。同じ言語を使う他の地域はどう扱うか。

    言語と地域は別の軸です。地域だけで書くと、同じ言語の翻訳版が、地域外で流通して争いになります。

  3. 媒体は、紙、電子、配信、音声のどれか。

    含める媒体と、含めない媒体を書き分けます。媒体ごとの分け方は、媒体別の許諾のページで扱います。

  4. 完全独占期間の起点と終点は、いつか。

    契約日か、翻訳成果物の公表日か、販売の掲載日かで、期間の長さが変わります。起点がずれると、期間が終わったかどうかで争いになります。

  5. 期間が終わった後の、権利者の側の販売は、どの範囲か。

    販売の経路や相手の限定、再許諾の可否、売上の帰属が書かれていないと、許諾はあっても使えない状態になります。

サブライセンスの範囲:翻訳者・制作委託先と、販売・配信先

許諾を得た者の利用権は、著作権者の承諾を得ない限り譲渡できません(63条3項)。この定めは、許諾を受けた翻訳側が、その権利を別の人に移す場面の基本です。翻訳のライセンスでは、第三者に権利を使わせる場面が、性質の違う二つに分かれます。一つは、翻訳者、校正者、組版や装丁の制作者など、翻訳成果物を作るために必要な範囲で原作を利用させる場合です。もう一つは、できあがった翻訳成果物を販売したり、配信したりする先に許諾する場合です。前者は、翻訳側のための作業にとどまる限り、権利者の承諾を個別に取らなくても足りるように書く例があります。後者は、翻訳成果物の利用が28条により原作者の権利にも関わるため、通知や承諾の手続を書く必要があります。

条文例サブライセンスを二つに分けて書く条文例(一般的な例)

  1. 乙は、翻訳成果物の作成に必要な範囲で、第三者(以下「制作委託先」という。)に本原作を利用させることができる。この場合、制作委託先による利用は、乙のための翻訳成果物の作成の目的に限る。
  2. 乙は、制作委託先に対し、本契約において乙が負う義務(秘密保持、目的外利用の禁止、著作者人格権を行使しない旨の約束を含む。)と同等の義務を負わせ、制作委託先の行為について、自ら行ったものとして責任を負う。
  3. 乙は、翻訳成果物の販売または配信を第三者に許諾するときは、あらかじめ、当該第三者の名称および許諾の範囲を甲に通知する。当該許諾が第○条に定める範囲を超えるときは、甲の事前の書面による承諾を要する。

一項の制作委託先は、翻訳成果物を作るためだけに原作を使う関係で、二項で責任を翻訳側に残します。三項は、販売先・配信先への許諾の通知と承諾の手続です。翻訳側から見ると、通知で足りる範囲を広くとれるかが、運用のしやすさを左右します。

制作委託先に、特定の事業者の名前を挙げて限定するかどうかも、決めることがあります。権利者の側は、翻訳の品質や、原稿が外部に漏れないかを気にします。翻訳側は、翻訳者を柔軟に選びたい。そのため、「権利者が合理的な理由で拒める」条件を書き、拒む理由の例(権利侵害の既往、倒産手続、反社会的勢力との関係など)を挙げておくと、拒否の運用が安定します。

報酬の通貨・換算日・報告頻度・最低支払額

許諾料や印税の計算式そのものは、許諾料の計算と報告のページで整理しています。海外との契約では、そこに通貨と換算に関する項目が加わります。民法403条は、外国の通貨で債権額を指定したときは、債務者は、履行地における為替相場により、日本の通貨で弁済をすることができる、と定めています。契約に何も書かなければ、どの時点の、どの機関の相場で換算するかが争点になります。通貨の指定と、換算日と、相場の出所は、セットで書きます。

海外のライセンスで決めておく項目

決めること選択肢の例書かないとどうなるか
契約の通貨と支払の通貨契約も支払も同じ外国通貨とする/契約は外国通貨、支払は日本円に換算して行う。民法403条により、日本円で弁済される場面があり、受取額がぶれる。
換算日売上を計上した月の末日/報告書の提出日/実際の支払日。日がずれると、為替の変動分だけ、受取額が変わる。
相場の出所特定の中央銀行や金融機関が公表した相場。複数の公表相場があり、どれによるかで食い違う。
報告の頻度と期限毎月、四半期ごと。月の末日から起算して一定の日数以内。報告が遅れたとき、いつ遅延と判断するかが分からない。
最低支払額と繰越累計額が一定額に達するまで支払を留保し、次の期に繰り越す。少額の支払が毎回発生し、送金手数料が割に合わない。逆に、繰越が永久に続くことがある。
送金手数料支払う側が負担/受け取る側が負担/折半。受取額から差し引かれ、想定より少なくなる。

最低支払額と繰越の仕組みは、少額の取引が続く海外配信で特に役に立ちます。ただし、繰越されたまま契約が終わるときの扱い(終了時に精算して支払うのか、そのまま消滅させるのか)を書いておかないと、権利者の手元に入るべき金額が消えてしまいます。また、翻訳成果物が契約の終了後も売られる場合は、報酬が終了後も一定期間続くのか、終了と同時に止まるのかを決めます。終了後も支払が続く仕組みを置くときは、その終了日(最後に支払う日)を、契約の別紙などで明示します。

準拠法・管轄・補償:外国の事業者との契約で決める三つ

法の適用に関する通則法7条は、法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法による、と定めています。つまり、契約の準拠法は、当事者が契約の時点で選べます。選ばなかったときは、通則法8条により、その法律行為に最も密接な関係がある地の法によることになり、当事者の一方のみが特徴的な給付を行う場合は、その給付を行う当事者の常居所地法(事業所があればその所在地の法)が最も密接な関係がある地の法と推定されます。選択がないと、結論の予測が難しくなるため、契約書には準拠法を書きます。なお、契約の準拠法を選んでも、作品が販売される国での著作権の保護や、強制的に適用される法律が別に問題になることがあります。その部分は、各国の法令と所管官庁の資料で確認が必要です。

紛争の解決の場所も、準拠法とは別に決めます。どの国のどの裁判所とするか、専属的な管轄とするか、仲裁にするか、の選択です。外国の裁判所での手続は、費用や時間の面で負担が大きく、また判決の執行の可否は国ごとに異なります。契約書には、準拠法と管轄を書きますが、現実に使う場面を想像し、書いた内容が自分にとって使える場所であるかを確かめておくことが大切です。

条文例準拠法と紛争解決の条文例(一般的な例)

  1. 本契約の成立、効力、解釈および履行は、日本法に準拠する。
  2. 本契約に関する紛争について、甲および乙は、まず誠実に協議する。協議によって解決しない場合は、○○裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
  3. 本契約の書面は日本語を正本とし、翻訳版が作成された場合も、解釈は日本語の正本による。

外国の事業者との契約では、準拠法を日本法とし、管轄も日本とする案を権利者が出し、相手が自国の法と裁判所を主張して折衝になることがよくあります。相手の主張を受け入れる場合でも、その国の法令の内容を契約前に確認できる形にしておくことが、最低限の備えです。

補償も、外国の事業者との契約では要点になります。権利者は、自分が許諾する権限を持つこと、許諾した作品が第三者の権利を侵害しないことを保証し、保証に違反して翻訳側が第三者から請求を受けたときに補償する、という形が多く見られます。この補償が権利者の側にだけ置かれていて、翻訳側の保証(たとえば、翻訳内容が第三者の権利を侵害しないこと、販売が法令に違反しないこと)には補償が置かれていない契約は、権利者の負担が偏ります。補償の対象、通知の手続、防御の主導権、責任の上限は、双方に対応する形で書きます。侵害への対応の詳細は保証と侵害対応のページで扱います。

書き方の例(一般的な例) 保証と補償の偏り

補償の向き

よくある書き方権利者だけが保証し、権利者だけが補償する。
整えた書き方権利者は許諾する権限と作品の権利について保証する。翻訳側は、翻訳の内容と販売の方法について保証する。それぞれ、自分の保証の違反について補償する。

理由誰がどの部分を管理しているかに対応させると、偏りが減ります。原作の権利は権利者が、翻訳文と販売方法は翻訳側が管理しています。

通知と防御

よくある書き方「相手に通知した場合に限り補償する」とだけ書く。
整えた書き方「請求を受けた側は速やかに通知する。補償する側が防御を行う権利を持ち、受ける側は協力する。補償する側の同意なく和解してはならない。」

理由通知の遅れだけで補償が全部なくなるのは、重すぎます。通知、防御、和解の三点セットで書くと、手順が分かります。

責任の上限

よくある書き方上限の定めがない、または、一方だけに上限が置かれる。
整えた書き方「間接損害は負わない。責任の総額は、請求前の一定期間に支払われた対価の総額を上限とする。ただし、補償義務を除く。」

理由上限を置くと、予測可能になります。補償は、上限の例外とするのが一般的な設計です。

終了時:翻訳成果物が宙に浮かないように

翻訳のライセンスが終了するとき、最も厄介なのが、翻訳成果物の扱いです。翻訳成果物は原作の二次的著作物であり、その利用には原作者の権利(28条)も及びます。契約が終了して原作を使う許諾がなくなれば、翻訳側は原作を土台にした翻訳成果物を、それ以上使えません。反対に、翻訳側が翻訳成果物の著作権を持ったままなら、権利者の側が翻訳文をそのまま使おうとしても、翻訳側の権利が及びます。双方の権利が互いに拘束し合うため、何も書かないまま終わると、翻訳文を誰も使えない状態になることがあります。

終了時の確認の順序

  1. 販売・配信の停止終了日以後の新規の販売と配信を止める日を決める。
  2. 在庫・既存分の扱い紙の在庫や、配信中の作品の扱いを、期間と条件を付けて決める。
  3. 翻訳成果物の扱い権利者が引き継いで使うのか、翻訳側が引き続き保有するのか、買い取るのか。
  4. 報酬の精算繰越されている金額、未払の報酬、終了後も続く報酬を確認し、精算する。
  5. 存続する条項秘密保持、報告、帳簿の保存、補償など、終了後も続く義務を確認する。

権利者の側が最も確保したいのは、翻訳成果物を次の相手に引き継げることです。翻訳側が最も確保したいのは、翻訳にかけた費用の回収が、終了後も一定期間続くことです。両方の要望を満たす案として、終了後の翻訳成果物の利用を、対価と引き換えに認める書き方があります。終了時の全般は終了・絶版・権利の戻し方のページでも扱います。

署名前の確認と、起きがちなこと

署名前に確認すること

  • 翻訳成果物の著作権が誰に置かれ、置かれなかった側に、どの範囲の利用権があるか。
  • 翻訳者に制作を任せる場合の、翻訳者の著作者人格権の不行使の約束が、契約に組み込まれているか。
  • 独占の範囲が、地域、言語、媒体の三つで書かれているか。同じ言語を使う他の地域の扱いは書かれているか。
  • 完全独占期間の起点と終点、期間後の権利者の側の販売の範囲と売上の帰属が書かれているか。
  • サブライセンスが、制作委託先と、販売・配信先に分けて書かれているか。
  • 報酬の通貨、換算日、相場の出所、報告の頻度、最低支払額と繰越、送金手数料が書かれているか。
  • 準拠法、管轄(または仲裁)、使用する言語が書かれているか。
  • 保証と補償が、双方に対応する形で書かれているか。通知、防御、和解の手順はあるか。
  • 終了後の翻訳成果物、在庫、未払の報酬、存続する条項が書かれているか。

起きがちなこと

  • 翻訳成果物の権利をすべて翻訳側に渡したため、契約の終了後に、別の翻訳者を使って同じ言語の翻訳版を出そうとしても、既存の翻訳文を使えなかった。
  • 独占地域を広い範囲で一括して書いたため、将来、別の地域で別の相手と組む余地がなくなった。
  • 完全独占期間の起点が曖昧で、権利者が自国で翻訳版を扱い始めた時期が早すぎたと言われた。
  • 制作委託先に任せた翻訳者から、翻訳文の改変について異議が出た。人格権の約束を取っていなかった。
  • 換算日と相場の出所が書かれておらず、最初の支払で、報告書の金額と入金額が合わなかった。
  • 準拠法の定めがなく、紛争が起きたときに、どの国の法律で判断するかの議論から始まった。
  • 補償が権利者にだけ置かれ、翻訳側の翻訳内容に問題があったときの責任の所在が曖昧だった。

よくあるご質問

翻訳を許諾すると、翻訳した文章の権利は誰のものになりますか?

契約の書き方によります。翻訳は著作権法27条の翻案する権利の範囲で、できあがった翻訳成果物は二次的著作物にあたります(2条1項11号)。翻訳成果物の著作権を翻訳側に置くか、権利者に置くか、どちらかに置いたうえで他方に利用権を認めるかは、契約で決めます。何も決めないと、終了後に誰も翻訳文を使えない状態になりかねません。

独占地域を決めるとき、国名を列挙するのと、広い範囲を一括して指定するのは、どう違いますか?

国名を列挙すると、書かれていない地域は独占の範囲外であることがはっきりします。一括指定型は、書くのは簡単ですが、将来、別の地域で別の相手と組みたいときの余地が消えます。地域とは別に、言語と媒体も決めて、三つの掛け合わせで範囲を確認することが大切です。

翻訳者に作業を任せるとき、権利者の承諾は必要ですか?

許諾を得た者の利用権は、著作権者の承諾を得ない限り譲渡できません(著作権法63条3項)。翻訳のための作業を任せる場合と、完成した翻訳成果物の販売先に許諾する場合では、扱いが違います。前者は翻訳側のための作業にとどまる限り承諾を個別に求めない書き方があり、後者は通知や承諾の手続を書くのが一般的です。契約にどう書かれているかを確認します。

報酬を外国の通貨で定めた場合、日本円で受け取れますか?

民法403条は、外国の通貨で債権額を指定したときは、債務者は、履行地における為替相場により、日本の通貨で弁済をすることができる、と定めています。そのため、契約に何も書かないと、いつの、どの機関の為替相場で換算するかが争点になります。通貨、換算日、相場の出所を、契約書に書いておきます。

外国の事業者と契約するとき、準拠法はどう決めますか?

法の適用に関する通則法7条により、当事者が契約の時点で選択した地の法によります。選択しなかったときは、通則法8条により、最も密接な関係がある地の法によることになります。契約書で準拠法を決めておくのが基本です。ただし、作品が販売される国での著作権の保護などは別に問題になることがあるため、各国の法令と所管官庁の資料で確認が必要です。

あわせて読みたいページ

本ページは一般的な情報提供です。個別の取引への当てはめは、契約の内容や取引の実態によって異なることがあります。条文は e-Gov法令検索(法令API)で確認しています。参考: e-Gov法令検索 / 文化庁

アトラス行政書士法人|毎日5組限定契約書・利用規約の無料チェックお手元の書類の問題点を、行政書士が詳しく指摘します。1書類につき24時間以内に回答・お1人様3種類まで無料チェックの詳細を見る›

ご依頼の前に:対応の内容

詳しい内容を見る

出版・ライセンスの契約書でお困りの方は、お気軽にご相談ください。

公式LINEで無料相談する
アトラス行政書士法人 公式LINEの友だち追加QRコード
  1. 公式LINEを友だち追加
  2. 「出版・ライセンスの契約書ガイドを見た」とメッセージを送信
  3. ご相談内容を確認し、LINEでご返信します(365日・深夜や休祭日も通常対応)

相談無料です。料金が発生するのは、お申込みいただいた書類の作成・点検だけです。

LINEで友だち追加して無料相談する

申込フォーム・お電話でもご相談いただけます。

ご依頼・納品の流れを見る